設計コンセプト
「家族は皆仲がいいんです」そうおっしゃる施主。家族が過ごす時間を楽しめる住宅には、多くの間仕切りも個室も必要なかった。「ひとつ屋根の下で家族が暮らす。」そんな基本的な家の在り方を求められたのだ。敷地は間口9m奥行き13m、35坪の狭小地。南側の隣地は現在空地だが、いつ近接して建物が建つか知れない。そこで敷地いっぱいに建物を配置し、中央に吹き抜けの中庭を設け、将来的に採光、通風を確保する事にした。パブリックな空間は2階にあるが、キッチンや居間、お風呂、どこにいても、外の様子や家族の気配をこの中庭を通じて感じる事ができるよう配慮した。安心を生む特別な設備がないかわりに、人が直感的に感じる意識に対し、極力素直な住宅を創ろうと思ったからである。そのもう一つのファクターとして、1階も2階もほぼワンルームの空間性にある。空間ニーズや家族の関係によって自由に仕切れるようにした訳だが、その場合の壁は、決して単なる壁ではないと思う。だから、そこはあえて住まい手に委ねる事にした。現在、小学生のお子さんは、勉強机や寝床を、季節に応じてこの住宅内を移動するという。「まるで遊牧民ですよ」とご主人がおっしゃった。季節に応じて居場所を変える事も、実は簡単に出来そうで出来ない「エコ」なのかもしれない。そんな自由な空間には、熱源を電気にする事は法的にも不可欠であった。プライベートも障壁も、家の中には必要ないと言ってのけるこのご家族にとっては、35坪という狭小地も「心地よい狭さが生む豊かさ」であるに違いない。