設計コンセプト
広島市郊外、山陽本線に沿って流れる瀬野川沿いにこの家はあります。築80年、かつては原爆から逃れて、30人余りの縁故者がこの家に身を寄せたと聞きます。老朽化が進み、使い勝手が悪い、プライバシーを保てる部屋がない、寒い、といった理由で、母屋に住まず、離れを住居としていたご夫婦が、定年を機に母屋の改修を決意されました。改修にあたっては、古い民家の持つ大らかでのびやかな空間を大切にし、現代的生活を快適に過ごせるよう再生しました。構造体はそのまま使うため傷まないよう解体。白蟻による食害や欠陥が予想以上に酷く、補強を行いました。壁の挿入に際してものびやかな空間を損なうことのないよう留意して配置、格子壁の採用などを工夫しました。壁・天井・床・開口部は全て断熱することで、少ないエネルギーで快適に過ごせ、居住性は格段に向上します。定年後は、毎日家にいる生活となります。一日を一番長く過ごす居間や台所は日当たりのいい家の中心とし、ここからご主人が大切にされている日本庭園・北側の書斎コーナー・客間・広縁とつながります。書斎コーナーには奥様のピアノがあり、夫婦の趣味の間としても使います。地域ボランティア、民生委員等、積極的に活動されているため、来客も多いのですが、縁側にちょっと腰をかけたり居間に招き入れたりと、いつでも人を受け入れられる家として再生しました。明るく朗らかなご夫婦が、この家で第二の人生を楽しく過ごしてくださることを願うばかりです。