設計コンセプト
広島市内に建つ、夫婦と子供二人のための住宅です。夫婦は共通の趣味としてロードバイクを愛し何台も保有されていました。またご主人は船釣りも嗜み、オーディオや家具にも興味があるなど、非常にアクティブな生活を楽しんでおられます。
その暮らしぶりから将来的に趣味が多岐に渡ることは容易に想像でき、同時に好きなものに囲まれ幸せに暮らす家族像が思い浮かび、とにかく大きな気積の中で、伸び伸びと好きな暮らしが出来る「余白のスペース」を持つ空間を造りたいと考えました。
限られた予算や条件の中で最大の気積を獲得するため、最低限雨風をしのげる空間を建ぺい率いっぱいに立ち上げ、その中に生活の場を必要に応じて設えることにしました。具体的には、経済性や強度に優れ工場などで採用される、はぜ締めタイプの折板を隣地アパートに面する西壁面と屋根面に採用し、地面から立ち上がるL型の軒下空間を立ち上げました。
20m近い奥行きを持つL型の軒下空間に生活空間を敷地奥の北側からコンパクトに並べていき、軒下空間の1/3を「余白のスペース」として確保。そこに緩衝帯として玄関を兼ねた7畳程の土間スペースを設けました。
安定した生活性能を担保した生活空間、半内部の土間スペース、半外部の軒下空間と仕様も性格も異なる各空間が違和感なくシームレスで相互依存的に混在するように、副資材を排除した軒下空間の柱・大梁のみのシンプルな表現や、土間スペースの床仕上、木建・アルミサッシの使い分けなど慎重に計画しました。
違和感なく各空間が混在した状態で6mの高さをもつ軒下空間に包まれると、1階レベルでは軒の存在や各領域を感じなくなり、不意に外部と内部の境界が曖昧になる瞬間が訪れます。
この曖昧さは暮らすうちに内部のものが表出したり、外部にあるべきものが内に入ってきたりとますます進んでいき、趣味や好きなもので「余白のスペース」を埋め尽くしていき、生活領域が外部まで拡張されていくのではと期待しています。