設計コンセプト
敷地は広島県東部に位置する山裾の地形に沿って広がる田園地帯にあり、ご両親の住む母屋の隣にある古い納屋を解体して若夫婦の離れを新たに計画するものであった。幸い解体前から相談を受けていたこともあり、いくつかこの土地の記憶を継承するような固有の特性を見出し、残すことができた。それは長い時間受け継がれ、見慣れてきたであろう石垣や樹木、そして敷地に沿って築かれた石積みの水路や敷地の高低差など、地形の特性である。この豊かな周辺環境のひとつとして寄与していた土地の特性を活かすことで時間を継承しながら新たな風景として佇む住宅を考えた。南北に伸びる細長い敷地から必然的に、ひとつのボリュームでまとめるのではなく、機能に応じたかたちで領域を分節していった。具体的には既存樹木と敷地の高低差を生かしながら道路境界線と母屋に対して3つのボリュームを平行に配置している。この地形から生成されたボリュームの隙間から、南面に面していない各居室への採光や通風が行き渡るようにしている。また、母屋とのつながりを考えながら敷地レベルに沿った形で各居室を設定し、プライバシーを確保できる居場所をつくりながら、開口のつながりによって双方の気配が感じられる断面構成にしている。それはこの土地に根差してきた桜桃・柿・椿などの樹木を活かす配置でもある。このように地形から導かれた建築の構成によって、母屋・離れ・各居室間同士の身体の距離感を操作し、空間の多様性が敷地全体から周辺環境にまで広がっていくことを意図した。長い時間を積み重ねてきた周辺環境の素朴な要素と呼応する素材として、外壁材は防腐材を加圧注入した杉材の選択が自然に感じられた。桟木斑の痕が残る肌理の粗い素材を無塗装の仕上げ材として使用することで、この場所の継続してきた時間の蓄積を新たに建築に取り込めるのではないかと考えた。地形という古くから変わらない特性を丁寧に読み取り、反映させることで今までの風景の中に新たな環境と建築が存在し、この地域の中でゆるやかに風景をつないでいくように思えた。