審査員講評
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錦織 亮雄 (建築家・株式会社新広島設計 代表取締役会長 )
第10回という節目を迎えて、このコンテストへの応募作品は当初に比べて量質ともに格段の充実ぶりである。これまで一貫して、生活の日常性を支える住宅としての統合的な価値を評価することを心がけながら審査してきた。コンテスト応募作品の秀作は、当初は作品性の強いものが多く、ややもすれば生活そのものに非日常性を強いるような住宅もあった。住宅創りの充実とは、この作品性と日常性とが融合して行くところにある。今では、そのような融合が巧みに結実した作品が数多く応募されるようになってきた。
「犬馬難鬼魅易(犬馬は難くして鬼魅は易し)」という言葉がある。犬馬すなわち身近な日常の創造は難しく、鬼魅すなわち驚くような非日常的なものの創造は安易であるという意味だ。住宅を含めて環境づくりを職能とする者は、身近な日常を正しい美しさに結実させるという難関にひたむきな心で挑戦し続けなければならない。

西川 加禰 (社)広島県建築士会「高齢者住宅と福祉のまちづくり研究会」代表
(前・広島工業大学助教授)
 良い住まいとは着心地の良い服のようなものだ。人それぞれ顔も違い性格も好みも一様ではない。こうした意味から家族にとっての住まいは個別的性格の強いものです。それだけに家族の思いをどれだけくみ取り、どのようなプロセスを経て結果として住宅に具現化したかが問われるところです。このことは数多く寄せられた作品の審査にあたっていつも思うことです。
 新築住宅部門で最優秀賞の「回・遊・眺の家」は、そこに住宅が立地することの景観をも配慮し、家族にとっての生活スタイルを多面的にとらえて設計されており、軽快でスマートな作品となっています。優秀賞の「ながく暮らす家」は住宅の密集する南北通路のような細長い狭小敷地でも親子2世帯が快適に暮らせる住いづくりの設計力を評価しました。西側に面する小川を上手く取り込んだところが大きな要因となっております。同じく優秀賞の「家族が集う家」は、家族はもちろんのこと親戚・友人知人みんなが集まるような家にしたい、そんな願いが実現した作品となりました。まさに住まいは人をつくると云われる信念が伝わってくるようです。
 住宅リフォーム部門ですが、既存建物との折り合いを考えながら、新しい生活スタイルにかなった住空間に作り直すところに難しさがあります。最優秀賞の「Mハウスリノベーション」は度重なる増改築で生じた多くの問題に対処されました。店舗併用のため親子2世帯が2階のワンフロアーで生活するための工夫が見られます。優秀賞の「観音の家」は高齢者のひとり住まいにあわせて、コンパクトによくまとめられております。審査員特別賞の「2世帯住宅」は、考え方や図面表現は上手いのですが、増築部分が多いことなど考慮した結果です。
 最後に、応募作品としての資料づくりですが、平面図に室名、方位、敷地状況、写真説明などが未記入の為にせっかくの熱意と努力を上手く伝えられない作品が多かったのは残念に思います。

宮野鼻治彦 (プロデューサー・生活デザイン研究所 代表取締役 )
10回目という大きな節目を迎えた今年度のコンテストは、これ迄で最多の156点の応募が寄せられました。しかも全体的に作品のレベルが高く、拮抗していたことから審査は難渋し、結果として魅力的な住宅であるにもかかわらず選外となった作品も少なくありませんでした。
 そうした心の痛む審査を通じて改めて考えさせられたのが、住宅計画における「関係性」の問題です。すなわち方位・日照・風向き・景観など自然環境との関係性、道路や近隣住宅との位置関係、街並との調和などコミュニティとの関係性、さらに通勤・通学や買い物、病院、公共施設への利便性など生活環境との関係性、もちろん夫や妻、両親、子供など家族との関係性は最も重要なテーマでしょう。これらの関係性をどのように捉え、電化住宅の特性をテコにした心地よい生活空間へとどのように昇華されているのかを懸命に読み取らせていただいたのですが、残念なことに図面に方位の標記が欠けていたり、施主の生活ニーズについての記述のない作品が多数見うけられました。
 次回には、さまざまな関係性への主体的な姿勢から生み出された刺激的な作品との出会いを期待したいと思います。
 
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