錦織 亮雄 (建築家・株式会社新広島設計 代表取締役会長 )
合理的な計画や洗練されたデザインなど住宅としての平均的なレベルが向上し、同時にどんどん均質化する応募作品の傾向は年々益々強まります。
本年も“人の「すみか」としての正しさを評価する健全なコンテスト”を願って審査に当たりましたが、大変難しい審査でした。
21世紀を迎えて、地球のことも、世界のことも、日本のこともだんだん分かってきて、それらを考えながら一人一人が納得のいく生き方をしなければならないのですが、社会や経済の骨格はまだまだそれとは無関係な流れで動いています。したがって、透徹したライフスタイルも定まりにくい時代ですし、住宅作りも大変難しい時代だと思います。生き方にも家作りにも頑固で勇気のある思想が必要な時代です。
新しい時代を指し示すような住宅を探しながらの審査でした。入賞作品はすべてそのような内容を持っていると思います

西川 加禰 (社)広島県建築士会「高齢者住宅と福祉のまちづくり研究会」代表
(前・広島工業大学助教授)
住宅をつくることのコンセプトとは何か。それは人の顔がみんな違うように、それぞれのおかれた条件が異なるために、特定することは難しいものです。審査をしながら、いつもこのことにこだわってきましたが、時には設計者の強烈なこだわりを感じたり、反対に施主の方が住居にたいする明確なイメ−ジを実現しようとする頑固なところも見られます。これらの双方ともに、お互いのバランスの良い出会いがあると、そこには良い住宅が誕生するものです。そんな作品がいくつかありました。
 さて、今年の傾向として、(1)住み心地を優先する考え方、(2)有限なエンネルギ−を有効に生かすエコ住宅、(3)地場の建築材や自然素材こだわる安全と健康志向、(4)若い設計者の斬新なデザインによる住宅、などが印象に残りました。
 新築部門 の最優秀賞「本川の家」は周囲をビルで囲まれた、間口狭小の悪条件に、施主の「地域に住みたい」という強い願望。これに答えて自然の光や風を取り込んだ豊かな住空間をつくりだしておられます。優秀賞の「光の家」は、中央部分を吹き抜けにし、テラスと中庭の2面に開放して、内外ともに立体的な豊かさと採光の取り入れ方が良いと思います。同じく「東岐波の住宅」は自然派にこだわり、本当に住む人が健康で安全に生活が出来ることを最優先されました。
 リフォ−ム部門の最優秀賞の「美野の家改修計画」は、住む人の後々まで考えた光の取り入れ方にこだわった、採光方法に施主への思いやりを感じました。優秀賞の「Y邸改造工事」は民家の骨組みを生かしながら、バリアフリ−にも視点を置いた、これからの老後生活が快適に送れる明るい期待が持てます。

宮野鼻治彦 (プロデューサー・生活デザイン研究所 代表取締役 )
最近人気の高い女性占星家の出演するテレビ番組を見ていると、必ず「家相」についての話題が取り上げられ,視聴者の関心を集めています。また、書店には「子供の成績が上がる家づくり」「家族関係を良くする住まい」といった類の本が数多く置かれるなど、住宅づくりを人生の充足度に多大な影響をもつものとして位置づける考え方は、古くから私たちの社会に深く根付いているようです。
 確かに新築であれリフォームであれ、住まいを変える際には、誰もが自分や家族が「より良く生きる」ことへの切なる想いを込めて、取り組むものであることに相違ありません。 
 そこで今回の審査にあたっては、応募作品を施主の方々が「より良く生きるための問題解決」の結晶として拝見・評価させていただきました。ただ問題解決といっても、人によって人生観・価値感が異なる以上、優先されるテーマはまちまちです。
たとえば「豊かな自然環境」を大切にする考え方の一方には「都心の利便性やフレキシビリティ」を優先する選択もあることになります。そして通常はどちらかにこだわれば、他方は犠牲にせざるを得ないと考えるのが道理であるにもかかわらず、「あちらもこちらも手に入れたい」とわがままな目論見を企てるのが、私たち人間の性であるようです。したがって「良い住宅」とは、設計者が施主の希望やこだわりを最大限尊重しつつ、プロとしての創意を巡らせて犠牲を最小限に抑えることができた、まさに矛盾と葛藤のルツボから産み出される宝石のようなものでしょう。
 そうした視点で評価すると、新築部門の「本川の家」、リフォーム部門の「美野の家改修計画」は共に問題解決度の高さにおいて傑出した最優秀賞にふさわしい作品でした。
 また、優秀賞の3作品も、それぞれ施主と設計者による問題解決コラボレーションの深さが伝わってくる味のある秀作だと感じました。来年も「電化」を問題解決のスパイスとして「幸福の器」に結晶させた滋味溢れる作品との出会いを期待します。