錦織 亮雄 (建築家・株式会社新広島設計 代表取締役会長)
 世紀の変わり目というこの時代、住宅づくりにも大きな変化が起こりつつあるように感じます。焼け野が原から出発した戦後の時代を振り返ると、生存のための住居を求める時代、所有の欲望で住居を求める時代、自分自身の生活観の実現のために住居を求める時代と住居への欲求が変化してきているように思えます。そして今この時代は、多様な情報の交錯する中で、この第三の欲求の時代が本格的に始まろうとする変化の時代だと思います。
 生産物として経済活動の中で供給される住居から住み手の参加で創り出す住まいの時代への変化が起こりつつあるように思います。そのような時代の中でこのコンテストは、電化住宅という枠組みの中で総合的な住まいづくりのあり方を競うものだと考えております。そのような視点で見てコンテストの応募作品の質は年々向上し、それぞれの住み手や創り手の生活への指向が多様で豊かになってきています。
 ほとんどの作品は単に物としての住居ではなく、生活観への強いこだわりが感じられるものでした。最優秀賞の「山陰のカントリーハウス」は自然やぬくもりへの徹底したこだわりで創り出されたものですし、優秀賞の「さくら野の家」は平成の民家を造ろうとする強い意図、「富の家」は自然との交流への巧みな対応、「東松崎の家」は屋外空間の巧みな利用など、住み手と創り手の意図実現へのエネルギーが結果を生んでいるものです。佳作の作品を含めて、それぞれに創り出すエネルギーの強さが評価されたものです。これからの時代、本当に足が地に着いたライフスタイルとそれに伴う実のある住まいがようやくわが国にも生まれつつあることを予感しました。

西川 加禰 (社)広島県建築士会「高齢者住宅と福祉のまちづくり研究会」代表
(前・広島工業大学助教授)
 審査を終えて、応募作品全体から気づいたことをいくつかあげてみますと、(1)家をつくるにあたってのコンセプトがしっかりしたものが多くなってきました。とりわけ、人と環境を調和させながら住むことのこだわりが強く感じられました。それは住宅が立地する周辺の環境であり、家族との生活像であったり、部屋の使われ方など住む人の固い意志があります。(2)出来るだけ自然エネルギーを利用して生活環境の質的維持を保つ工夫が見られました。自己排気熱再利用システムの導入などはリサイクルの必要性が叫ばれているにふさわしいものといえます。(3)バリアフリーの考え方は高齢者のみでなく誰にとっても住み良い住宅であることが認識され応募作品にも多く見られました。(4)シックハウス症候群が問題になっておりますが、家族の健康を考えて珪藻土などの自然素材使用が増えてきました。
 もう少し具体的に受賞作品から触れておきますと、まず最優秀作品はカントリーハウスのコンセプトがしっかりとしており、住み手の生活展開の意思がこと細かくリアルに出ておりました。どんなに素晴らしい住宅であってもそこに生活する住人が十分に住みこなさなければ良い住宅とは云えません。住み手が家を作っていく意味でも高く評価できると云えます。優秀賞の「さくら野の家」は先人の優れた文化遺産を評価し、前向きに積極的に新しい住まいを提案する姿勢が感じられました。次に「富の家」は豪雪地帯という厳しい風土にありながら、冬季の閉ざされがちな屋外との関わり空間を上手く設計に取り入れられていると思います。また「東松崎の家」は敷地環境を考えて、快適な住み心地を追及した作品であると思います。坪庭、路地風のアプローチなどを取り入れながら生活の場を快適に持ってきておられます。
 このところ国をあげて環境共生住宅が叫ばれるようになりました。エネルギー、資源、廃棄物などの面での配慮と自然環境との親密な調和、そして、住み手の主体的な関わりから、健康的で快適な生活が出来るように工夫された住宅が求められております。こうした意味から電化住宅はますます重要な位置を占めるようになると考えられます。

宮野鼻治彦 (プロデューサー・生活デザイン研究所 代表取締役 )
 ひと口に「良い家」といっても、そこにはさまざまな評価基準があります。外観やインテリアのデザイン性、生活動線に配慮した間取りの合理性、耐震性や耐久性、気密性、断熱性等ハード面の性能など、数え上げたらキリがありませんが、このコンテストの誕生以来4回目となる今回迄、私自身審査員としてこだわりつづけてきたひとつの視点があります。
 それは、真の意味での「家」の価値は、住まい手の家族がそこで生活を始めてから評価が定まるものだ、ということです。 もちろん、私たちが審査する時点でその点を検証する方法はありませんが、設計コンセプトの内容や間取り図面、写真など何度も見つめていると、応募作品に込められた「住まい手」と「造り手」のコミュニケーションの熟成度が、何故か自然に伝わってきます。
 電化住宅を採用すること自体、「住まい手の想い」や「造り手のこだわり」のベクトルが高いレベルにあるのかもしれませんが、今回は特にそうした熟成度の高い作品が多く、充実した手ごたえを感じさせられました。
 21世紀の住まいを考える上で、当コンテストがある意味でのリード的なポジションを確立しつつあるように思います。 来年がとても楽しみです。