設計コンセプト
傾斜地に沿って不規則に古い民家が建ち並ぶ集落に建つ住宅である。
この集落を初めて歩いたとき、地形に張り付くような家並みとその隙間から見え隠れする山々の稜線や空に強く魅力を感じた。設計するにあたってはそうした周辺環境とのつながりを主題とした。
配置計画においては、約130坪の敷地に一般的な総2階建ての建物を配置すると、湖にポツンと浮かぶ島のようで、敷地内外どちらにとっても落ち着かない環境になると考えた。しかし、平屋の大きなボリュームでは周囲の住宅スケールと馴染まない。
そのため、敷地内にある高低差を活かした2階建てと大小2つの平屋からなる3つのボリュームに分節することで問題を解決した。
平面計画では敷地をぐるりと囲む家々との距離感を丁寧に読み解き、建物をずらしながら不整形な敷地になじませている。また、主室と半階上がった家族室を視覚的に結び、適度に一体感を生み出している。
断面計画は周辺環境を内部に引き込むことを意図し、地形的な構成とした。そして、その空間を象る天井は深い軒へとつながり、プライバシーや日射をコントロールする。また、そうした場をより体感できるように、ハイサイドライトやボリュームのずれで立体的に光を取り入れている。
外観については屋根勾配を周囲に多く見られる瓦屋根に合わせ、軒を薄く深くすることで抽象化し、近景や遠景との調和を図っている。
おおらかで抜けのある空間は、絶えず変化していく光の移ろいを味わえると同時に、家族の気配を感じながらのびのびと生活することを可能なものとする。
また、適所に設けられた開口部からは、周囲の家並みや山々、空との関係性を感じ取ることができる。