錦織 亮雄 (建築家・株式会社新広島設計 代表取締役会長)
コンテスト出品作品の平均的なレベルは年々上がっています。そして最近はそれと同時にどんどん均質化してゆくように感じます。
人の「すみか」としての正しさを評価して健全なコンテストにしたいと願いながら毎年の審査に当たっていますが、今年はこの作品の均質化について深く考えさせられた年でした。
住宅に関する情報が多すぎるほど流される中で、住宅を持とうとする生活者は丹念に地に足をつけて自分の暮らしを考えることができにくくなっていますし、それに伴って設計者も深い創意を失いつつあるのかもしれません。
そのような中でも、ここにある入賞作品は、いずれも確かな創意に満ちたものだと思います。
特に、新築住宅部門最優秀賞の「東雲本町3丁目の家(光と風の感じられる家)」はあらゆる切実な条件に誠実に対応し、その練り上げの中から深い独自性が醸し出されている作品で、このコンテストの趣旨に良く適合したものだと思います。
皮相的なデザインや単なる差別化のための独自性ではなく、今の時代にこの国に生きてゆくための本物の住まいについて考える時がきているように思います。

西川 加禰 (社)広島県建築士会「高齢者住宅と福祉のまちづくり研究会」代表
(前・広島工業大学助教授)
社会環境は住宅にも大きな影響を与えております。今年に見られる傾向は、(1)中庭を取り入れたものが増えたこと、(2)設計コンセプトが、つくる側からの願いが記述され、住み手の本音が聞こえにくかったこと、(3)省エネルギ−の具体的な提案が薄れてきた、などがあげられます。とりわけ、中庭については、家族の安らぎとプライバシ−を満足させなければなりませんが、それは、家の中だけのことでは解決しないものです。窓から外に目をやるとき、花や樹木の美しさや、日差しの移り具合に季節を感じることも必要です。しかし、向かいの家からの視線や、通行人の目を警戒していては、穏やかな時間の流れや、くつろぎは得られません。このような課題が増えたためか、中庭の多様な取り込み方で平面プランに変化を持たせ、光と風を確保しながら、人目を気にしないで家族の団らんが出来るよう、屋外確保がなされておりました。
最優秀賞の「東雲本町3丁目の家(光と風の感じられる家)」と優秀賞の「グル−プホ−ムサンバ−ト茶屋町」の両者ともに、中庭をとることにより、光と風を取り入れながら、日常生活の良好な環境をつくっております。奨励賞の「伊達邸」は、住宅建築としては、入賞が難しいのですが、若い4人家族が今後成長していくための住宅として、しっかりとしたコンセプトを込めて家をつくられたことが評価されました。リフォ−ム部門では、今回は残念ながら佳作のみとなってしまいましたが、次回には良い作品を期待しております。

宮野鼻治彦 (プロデューサー・生活デザイン研究所 代表取締役 )
今回の審査を通して強く感じたことは、応募作品全体のレベルの向上です。
おそらく、今回惜しくも入賞されなかったほとんどの作品が、数年前であれば表彰の域に達していたのではないかと思いました。ただ、その裏返しとして、「電化住宅」に対する価値観の置き方が、安全性・快適性・環境共生等に代表される一定のフレームの中に固定してしまいつつあることを感じ、いささか物足りなさを感じさせられたことも否定できません。
たとえばわが国では、米国のように一生の間に6・7回住宅を住み替えることは実質上不可能であることから、新築住宅の大半が施主にとっての「終の住み家」にならざるをえません。
そうであるなら、住まい手家族のライフスタイルの変化の度ごとに、ビビットに、しかも簡便にリフレッシュできる住まいの知恵を開発することこそ、私達にとっての最重要テーマだと思うのです。
そして、その面において「電化住宅」は新築・リフォームを問わず、大きなポテンシャルを秘めているように思われてなりません。
次回には、こうした観点を含め、「電化住宅」の新しい価値コンセプトの発見、創造につながる作品に出会えることを楽しみにしたいと思います。